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M&A 株価を算定すること

2017年11月07日  

M&A株価を算定すること

第三者間取引において会社売却する場合、対象となる非上場株式の取引価額はどのように決まるのでしょうか。

この点、初心者向けの教科書などで、「M&Aの価格は、純資産プラスのれん代として営業利益3年分から5年分」と説明されているケースがあります。しかし、これは単に交渉の現場での使いやすさを優先した簡便的な計算であって、理論的な根拠はありません。M&A仲介会社には、「M&Aの株価は年買法(営業利益×年数)という評価方法が使われる。」と説明させるケースもありますが、理解に苦しみます。いずれも公正な価値額ではありませんし、合理的な時価でもありません。

M&Aのような純然たる第三者間の取引では、税法に規定された株価の計算方法に従う必要はなく、買い手と売り手が交渉によって取引価額が決められ、それが時価となります。

その際、買い手にとっての公正価値(投資回収計算に基づく経済的な投資額)と売り手にとっての公正価値(経済的な回収額)をお互いに提示し合うことによって価格交渉が行われます。

当然ながら、売り手は高く売ること、買い手は安く買うことが合理的であり、お互いの妥協点の限界において価格が決まることになります。このような交渉の妥協点がまさに「時価」となるのです。

公正価値の評価方法としては、DCF法などいくつかの評価方法あるが、どれを適用するかを決めたルールはありません。いずれの評価方法も当事者の主観的判断に委ねられる要素を多分に含んでいるため、そのときどきの状況や交渉上の力関係において、自ら合理的だと考える方法を選択適用すればよいでしょう。

公正価値の評価方法は、経済的に合理的ではあるのですが、曖昧で主観的な要素を多分に含んでいます。たとえば、DCF法による評価は、使用する事業計画が将来の予測数値であることから、将来予測が変われば評価結果が大きく変わってしまうことがあります。事業計画のほとんどは自ら予測するものであるが、予測のために入手できる情報の完全性には限界があるため、事業計画の予測値に実績値がピッタリと一致することなど可能性はゼロに近いことです。また、DCF法には事業計画以外にも資本コスト、負債資本比率など主観的・恣意的に決められる要素が多く、どれだけ緻密に計算しても客観的な数値とはなりえません。結局のところ、唯一無二の評価結果を求めることは不可能だと言えます。

M&Aの取引価額は、このような主観的な性格を持つ評価額であるため、買い手と売り手との間の交渉において、片側から一方的に提示される条件という位置づけに過ぎません。不動産取引のように、不動産仲介業者が提示した取引価額を使って取引が用われることはなく、互いに価格を提示し合うことによって決まるのです。

株価はキャッシュ・フローの割引現在価値

経済学と経営学では、会社が事業を営む目的は、キャッシュ・フローを創出することにあると考えます。したがって、事業価値は、会社の経営資源(ストック)の価値の積み上げで評価されるものではなく、会社が生み出す将来キャッシュ・フローの割引現在価値の合計額によって評価すべきです。

もちろん、会社のキャッシュ・フローは、現時点で会社が保有しているブランド、顧客関係や、知的財産権など様々な経営資源によって創出されたものであるから、ある意味、ストックの積み上げだと考えることができるでしょう。しかし、のれんや営業権など無形資産のストックとしての価値は、直接測定することができません。

そこで、その価値の測定方法が、将来のキャッシュ・フローの割引現在価値ということになります。複数事業を行う会社であれば場合は、その複数事業の事業価値の合計額を算出することになります。

その一方で、会社は事業価値を生み出す資産以外にも、余剰資産や遊休資産など、キャッシュ・フローは生み出さないものの、売ればカネになるという換金価値を有する資産を持っています。

たとえば、余剰資金として財務的な運用をしている投資有価証券や賃貸不動産等が挙げられます。そこで、このような非事業性の資産を時価で別建て評価して、事業価値に加算します。この合計額が、「企業価値」と定義される。

また、会社は、「マイナス」の将来の現金流出(マイナスのキャッシュ・フロー)をもたらす有利子負債を抱えています。有利子負債を企業価値から控除すると、会社の所有者である株主に帰属する価値が算出されます。これが、株式価値となります。

したがって、非上場株式のM&A株価は、事業価値に対して非事業性資産・負債の価値と有利子負債の価値を加減算して計算されることになるのです。

すなわち、M&A株価=事業価値+非事業性資産・負債-有利子負債が、M&A株価の基本公式です。

株式価値のイメージ

これらの事業価値に関する用語についてまとめると図のようになります。

事業価値、企業価値、株式価値


M&A株価の評価方法には、様々な手法がありますが、大別すると収益性基準、市場価格基準、資産性基準という三つ考え方があります。

収益性基準は、評価対象会社から期待される将来の利益ないしキャッシュ・フローに基づいて事業価値を評価する考え方であり、一般的に将来の収益獲得能力を株式価値に反映させやすいアプローチといわれます。現在の主流は、将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引いて事業価値を計算するDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)です。

市場価格基準は、上場している同業他社や類似取引事例など、類似する会社、ないし取引事例と比較することによって相対的に事業価値を評価しようとする考え方である。比較対象とした上場会社の株価や取引事例は、その会社や事業の将来価値も含めた継続価値と考えられます。この点、取引事例として公表されたM&A事例を集めることは容易ではないため、適用されるケースはほとんどありません。それゆえ、非上場会社の場合は、公表される上場会社と財務データと市場価格の倍率を用いる類似上場会社比較法が採用されることになります。

資産性基準は、主として会社の貸借対照表上の純資産に注目し、その清算価値を評価しようとする考え方です。基本的に資産および負債を時価で評価して純資産を計算する修正純資産法を採用します。
それぞれの方法には、メリットもあればデメリットもあります。DCF法は、前述のとおり、会社が将来獲得すると予想されるキャッシュ・フローに基づいて評価することから、将来の収益獲得能力を評価結果に反映させることができます。しかし、予測数値に対する恣意性の排除が難しく、客観性が間題となるケースもあります。

類似上場企業比較法は、証券市場で取引されている株式との相対的な評価方法であるため、市場での取引環境の反映や、一定の客観性には優れています。しかし、他の企業とは異なる成長ステージにあるようなケースや、そもそも類似する上場会社が無いようなケースでは評価が困難であり、評価対象となっている会社固有の性質を反映させられないケースもあります。

修正純資産法は、帳簿上の純資産を基礎として、時価評価に基づく修正を行うため、帳簿記録が適正で時価情報が取りやすい状況であれば、客観性に優れています。しかし、一時点の純資産に基づいた価値評価を前提とするため、将来の収益力の反映や、市場での取引環境の反映は難しいという問題点があります。

【質問】M&A仲介会社によれば、株式価値は「時価純資産価額+営業権」と言います。このように評価しますか?

これは価値を決める際にわかりやすい計算式ですが、理論的には全く根拠のない方法です。「営業権」は結局「=公正価値 - 時価純資産額」で計算しますから、先に公正価値を評価しなければなりません。

【質問】M&A仲介会社によれば、「営業権は3年から5年が相場」と言います。このように評価しますか?

これは大きな間違いです。「3年~5年」には何の根拠もなく、相場もありません。「営業権」は結局「=公正価値 - 時価純資産額」で計算しますから、先に公正価値を評価しなければなりません。