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株価算定【修正純資産法】

2017年11月07日  

修正純資産法による株価算定

資産性基準に基づく株価は、資産から負債を差し引いて算出される純資産を、発行済株式数で除して計算します。ただし、M&Aの会社売却の際には、資産および負債をすべて時価に評価替えした上で計算を行うことになります。

公正価値評価の方法の一つである修正純資産法とは、貸借対照表の資産および負債を時価で評価し直して純資産価額を算出し、1株当たりの時価純資産をもって株式価値とする方法です。全ての資産および負債を時価評価するのは実務的に困難なことから、土地や有価証券等の主要資産の含み損益のみを時価評価するケースが多いでしょう。個別資産を時価評価する際には、その資産の処分価額を用います。相続税評価額ではありません。その結果、M&A株価は会社の清算価値を反映したものとなる。

この方法の長所は、個別資産および負債の積上方式で事業価値が構成されるため、買い手側が取得する資産や負債の明細および金額が明確となることや、会社の貸借対照表をベースに評価できるため、その評価方法が容易であることです。公認会計士が実施する財務デュー・ディリジェンスから判明した検出事項を修正純資産に反映させることができるため、客観性のある評価方法となります。

短所は、継続企業を前提としていないため、のれんやブランド価値といった無形資産を評価することができないこと、時価が明確でない資産の評価が難しいことです。

流動性ディスカウントとコントロール・プレミアム

M&A株価の算定においては、「株式の流動性の有無」と「会社の支配権の有無」についても考慮する必要があります。株式の流動性とは、株式が自由に売買できるか否かという取引の容易さのことです。流動性が特に問題となるのは、類似上場会社比較法を用いて非上場会社の株式価値を評価する場合でしょう。使用する倍率は流動性の高い上場株式の倍率であり、そこには高い流動性に対する価値も含まれているため、非上場株式のように流動性の劣る部分については調整が必要となります。そこで、この部分をM&A株価からディスカウントすることになります。

会社の支配権とは、会社の議決権比率の価値であり、会社売却において議決権の過半や3分の2以上を取引する場合は支配権が対象となる売買取引と考えられます。会社の支配権と評価方法との関係では、DCF法では、事業計画を基にM&A株価を評価することから、事業をコントロールできる会社支配権の価値を意味していると言えます。逆に、類似上場企業比較法では、上場株式の倍率を使用してM&A株価を評価していますが、この上場株式の株価は一般的に少数株主間の取引価格であるため、単純に株式価値を評価したままでは支配権のない価値となります。したがって、完全な会社支配権を対象とした会社売却において類似上場企業比較法を使う際には、支配権プレミアムを加算する必要があるでしょう。

株式価値概念の比較

デュー・ディリジェンスとM&A株価算定

M&A株価を評価するにあたっては、実態や現状に則した正しい情報を使用することが大前提となります。この情報は、単に財務諸表の適正性を確かめるだけではなく、正常収益力を測定するために必要な情報が入手されなければなりません。この情報を入手する作業がデュー・ディリジェンスです。例えば、デュー・ディリジェンスからは、一過性の損益の調整や会計処理を買い手の会計処理に合わせた場合の影響等についての情報が得られます。

デュー・ディリジェンスで入手する情報は、貸借対照表を中心とした実態純資産の分析に係るものが多くなります。具体的には、資産の実在性として、回収可能性の低い売上債権、不良滞留在庫、遊休不動産、投資有価証券等の評価損益等を調整し、負債の網羅性としては、簿外債務を認識することにより、簿価純資産を修正することになります。デュー・ディリジェンスの結果として、修正純資産法によるM&A株価が適正に算定されることとなるのです。

一方、デュー・ディリジェンスでは、損益計算書を中心とした正常収益力に係る情報も入手されます。具体的には、その期の途中で売却・廃止した事業にかかわる損益、一過性の損益の調整等により、会計上のEBITDAを正常化することとなります。

また、DCF法に使うための情報を入手したい場合は、過年度の損益計算書を中心とした調査に加え、将来の事業計画の実現可能性を評価することを目的としたデュー・ディリジェンスも必要となります。その際、事業計画の合理性を確かめるためには、費用構造の分析(CVP分析、変動費と固定費の分解)や、予定されている設備投資の採算性分析等も不可欠となるでしょう。

最終的にM&A株価はどのように決めるのか

複数の評価方法を適用してM&A株価を計算し、いくつかのM&A株価、M&A株価のレンジが評価されることになりますから、最終的にどの株価を会社売却の際の取引価額として決定すべきなのかが問題となります。

近年、よくあるケースが、かつて優良企業であったが現在は衰退している会社のM&A株価です。業暦の長い会社の場合、かつては高収益を誇っていたものの、現在は低収益に苦しんでいるという会社は珍しくはありません。後継者不在の老舗企業にこうした会社は多いものです。その場合、売り手側の目線でM&A株価を評価すると、採用すべき評価方法は、修正純資産法によることが多くなります。しかし、老舗企業の場合、かつて稼いだ利益の蓄積、内部留保が膨らんでいるために、修正純資産法による評価では非常に高いM&A株価となってしまいます。

しかし、買い手にとって買収目的は、事業を支配すること、すなわち、「対象会社の将来キャッシュ・フローを買う」ことにあります。その意味では、現在の収益性が著しく低い会社を、修正純資産法によって評価すれば割高に感じられることになるでしょう。

買い手の感覚からすれば、いくら時価ベースでの資産が大きいといっても、将来キャッシュ・フローが生み出されないのであれば、投資を回収することができません。大きな投資をしても回収できないのであれば、その取引を実行する意味はありません。

このようなケースでは、売り手は修正純資産法による株価を望み、買い手はDCF法による株価を望むケースが多いため問題となります。この場合、どこで折り合いをつけるかは交渉によることとなりますが、修正純資産法によるM&A株価を下回る取引価額でしか売れないこともあるのです。

それでは、逆に創業間もないベンチャー企業の場合はどうでしょうか。このような新しい会社の場合、これまでの利益の蓄積がほとんどなく、評価対象となる資産がほとんどありません。このため、修正純資産法で評価すると非常に低い株価となってしまいます。しかし、将来キャッシュ・フローを生み出す可能性があるのであれば、事業価値は高くなります。そこで、こうした会社の売り手としては、DCF法によるM&A株価を重視することになります。DCF法の評価のベースとなるのは、将来キャッシュ・フローです。ただし、このようなベンチャー企業の場合、予測した将来キャッシュ・フローが実現するかどうか、その不確実性、リスクが著しく高くなります。買い手としては、現在は実態が見えないものを買おうというわけですから、ある意味雲をつかむような議論も多くなりがちでしょう。それだけに、売り手としては根拠ある事業計画を提示できるかどうかが交渉のカギを握っていると言えるのです。