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事業承継税制で不動産管理会社も相続できるのか!? 〜事業承継税制の不動産保有型会社と不動産運用型会社における事業実態要件の判定〜

2018年05月24日  

平成30年度税制改正において事業承継税制の対象となる株式が、発行済株式の2/3から全てに引き上げられました。また納税を猶予・免除される相続税も80%から100%に引き上げられました。
このため制度の利用価値がより一層高まっており、関心が集まっています。

ここではそうした事業承継税制を、不動産管理会社の相続にも適用できるのかについてまとめたいと思います。

1 資産保有型会社と資産運用型会社とは何か?

資産保有型会社と資産運用型会社については、以下のように定義されています。大まかに言えば、投資用不動産や金融資産などの「特定資産」が総資産の約7割を超えているということです。

1-1 【租税特別措置法 70条の7第2項8号&9号】資産保有型会社とは?

貸借対照表において、次のイ及びハの合計額に対するロ及びハの合計額の割合が、100分の70以上となる会社をいう。
イ 総資産の帳簿価額の総額
ロ 特定資産(現金、預貯金その他の資産であって財務省令で定めるものをいう。)の帳簿価額の合計額
ハ 5年以内に経営承継受贈者及び特別関係者が会社から受けた剰余金の配当等の額

1-2 【租税特別措置法施行規則 第23条の9第14項】特定資産とは?

【中小企業経営承継円滑化施行規則第1条第12項第2号】
イ 金融商品取引法の有価証券及びみなし有価証券であって、特別子会社(資産保有型子会社又は、資産運用型子会社以外の会社に限る。)の株式又は持分以外のもの
ロ 投資用不動産(一部が事業用で、一部が投資用の場合は、投資用の部分のみ。)
ハ ゴルフ会員権
ニ 絵画、彫刻、工芸品などの動産、貴金属及び宝石
ホ 現金、預貯金その他資産(受贈者・相続人やその関係者に対する金銭債権を含む。)

資産保有型会社の形式要件 (B+C)/(A+C)≧70/100
A=総資産
B=特定資産
C=5年以内において経営承継受贈者及び同族関係者がその会社から受けた配当金(贈与前に受けたものを除く。)及び損金不算入となった給与の合計額

1-3 資産運用型会社とは?

認定贈与承継会社の資産の運用状況を確認する期間として政令で定める期間内のいずれかの事業年度における総収入金額に占める特定資産の運用収入の合計額の割合が100分の75以上となる会社をいう。

資産運用型会社の形式要件 B/A≧75/100
A=総収入金額
B=特定資産の運用収入の合計額

そして、租税特別措置法第70条の7第2項1号ロに定められているように、資産保有型会社又は資産運用型会社のうち政令(租税特別措置法施行令 第40条の8第5項)で定めるものに該当すると、贈与税の納税猶予制度が適用できないことになります。逆に言えば、政令に定めるものに該当しなければ納税猶予制度を適用することができます。

1-4 【租税特別措置法第70条の7第2項1号ロ】認定贈与承継会社とは?

経営承継円滑化法の認定を受けた会社で、贈与時において、次に掲げる要件の全てを満たすものをいう。
ロ 資産保有型会社又は資産運用型会社のうち政令(租税特別措置法施行令 第40条の8第5項)で定めるものに該当しないこと。

そこで、次のフローチャートを使って、政令に定めるものに該当するかどうかを判定し、贈与税の納税猶予制度の適用可否を判断することとなります。◯は適用可能、✕は適用不可です。

2 形式要件を満たしていない場合は事業実態要件で判定

租税特別措置法施行令第40条の8第5項が意味するところは、形式要件を満たしていない場合(=貸借対照表の資産のほとんどを投資用不動産が占めている場合など)であっても、事業実態要件を満たしていれば、贈与税の納税猶予制度を適用することができるということです。ここでの事業実態要件の判定は、以下の要件を全て満たすこととされています。

【事業実態要件】
①贈与日まで3年以上継続して、商品販売その他の業務で、租税特別措置法施行規則第23条の9第5項に規定する業務を行っていること。

【租税特別措置法施行規則第23条の9第5項】
租税特別措置法施行令第40条の8第5項及び第23項に規定する財務省令で定める業務は、次に掲げるいずれかのものとする。
① 商品販売等(商品販売、資産の貸付け(受贈者及び特別関係者に対する貸付けを除く。)又は役務提供で、継続して対価を得て行われるものをいい、その商品開発、生産又は役務開発を含む。
② 商品販売等を行うために必要となる資産(常時使用従業員が勤務するための事務所、店舗、工場等を除く。)の所有又は賃借
③ これら業務に類するもの

②贈与時において、常時使用従業員数が5人以上いること。

ちなみに、ここでの「常時使用従業員」とは、労働基準法第20条に基づく「解雇予告を必要とする者」をいいます。この点、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員などで、平均的な従業員と比べて労働時間が4分の3に満たない短時間労働者は該当しません。また、会社役員も該当しません。

③贈与時において常時使用従業員が勤務している事業所、店舗、工場その他を所有又は賃貸していること。

以上のように、常時使用従業員を5人以上雇って会社の事業所で働かせ、3年以上、事業(商品販売、資産貸付又は役務提供)を営んでいるならば、贈与税の納税猶予制度は適用できるということになります。

本事例では、飲食業又は介護事業を開始し、常時使用従業員を5人以上雇入れ、営業所を構えて、3年後に株式を乙氏へ贈与するのであれば、総資産のほとんどが賃貸不動産であっても贈与税はゼロとなります。

著者紹介

岸田 康雄 (きしだ やすお)

事業承継コンサルティング株式会社 代表取締役
島津会計税理士法人東京事務所長
公認会計士、税理士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)

一橋大学大学院商学研究科修了(経営学および会計学専攻)。 中央青山監査法人(PwC)にて事業会社、都市銀行、投資信託等の会計監査および財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、メリルリンチ日本証券、SMBC日興証券、みずほ証券に在籍し、中小企業経営者の相続対策から大企業のM&Aまで幅広い組織再編と事業承継をアドバイスした。 現在、相続税申告を中心とする税理士業務、富裕層に対する相続コンサルティング業務、中小企業経営者に対する事業承継コンサルティング業務を行っている。 日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員。中小企業庁「事業承継ガイドライン」改訂小委員会委員。

著書には、「プライベート・バンキングの基本技術」(清文社)「信託&一般社団法人を活用した相続対策ガイド」(中央経済社)「資産タイプ別相続生前対策完全ガイド」(中央経済社)「事業承継・相続における生命保険活用ガイド」(清文社)「税理士・会計事務所のためのM&Aアドバイザリーガイド」(中央経済社)、「証券投資信託の開示実務」(中央経済社)などがある。