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中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方①〜親族外事業承継(M&A)のプロセス〜

2018年06月05日  

親族外事業承継(M&A)のプロセスは2つに大別され、一つは、買い手を探し出すプロセス、もう一つは、取引実行のための実務手続を遂行するプロセスである。一般的に、これらのプロセスを売り手となる企業経営者が自ら実行することは難しい。また、買い手を探し出すプロセスでは、(1)買い手候補をリスト・アップして探し出し、(2)彼らに自社の承継提案を持ち込み、(3)関心を持ってくれた買い手候補に対して自社の情報開示を行う。今回は、プロセス開始前の準備から、一連のM&Aの流れを説明したい。

1 第三者承継の準備

売却価格をできるだけ高くするためには、対象会社の事業価値を買い手に正しく評価してもらうことが必要であるため、事前に、以下のような準備が必要となる。

第一に、事業活動を定量的に把握できる仕組みが必要である。買い手が会社の財務内容を正確かつ明瞭に把握するためには、過去の決算書及び事業計画を整備するのみならず、その信頼性を評価してもらうために、根拠となる内部管理資料が不可欠である。
例えば、小売業であれば店舗別や商品別の売上データ、製造業であれば製品別の売上や営業利益、開発・製造コスト、建設業であれば工事別の売上や粗利などの資料の整備である。中小企業の場合には,これらのデータを抽出できるための管理会計が未整備の場合も多いため、早い段階での着手が望ましい。
買い手としても、単なる定性的な情報だけで事業価値を評価することは難しく、その価値が実現できるのか判断が難しくなる。買い手による買収の意思決定に資するため、また、適正な売却価格を実現するためには、事業活動の定量化が必要となる。

第二に、事業戦略を明確化しておくことが必要となる。たとえば対象会社の事業価値が低下傾向にある場合、資金不足等の理由から、本来実施すべき設備投資を怠っているケースや、人材採用や育成などがうまくいっていないケースがある。この場合には従来の経営において実現できなった事業戦略や業績改善のための施策、不足している経営資源を明らかにし、事業価値の成長可能性を示すとともに、買い手によるシナジー効果の検討作業に役立つ情報を提供する。

第三に、対象会社の事業価値源泉を明確化しておくことが必要である。例えば、買い手が同業他社ではなく異業種の会社や投資ファンドのような場合、必ずしも対象会社の事業に精通しているわけではなく、事業価値源泉を理解することが容易ではない。したがって、事業戦略を明確化するための前提条件としても、事業価値源泉の所在を明らかにしておくことが不可欠である。

2 第三者承継のプロセスの全体像

第三者承継のプロセスの全体像は、以下の図の通りである。

このプロセスは2つに大別される。一つは、買い手を探し出すプロセス、もう一つは、取引実行のための実務手続を遂行するプロセスである。一般的に、これらのプロセスを売り手となる企業経営者が自ら実行することは難しい。
買い手を探し出すプロセスでは、(1)買い手候補をリスト・アップして探し出し、(2)彼らに自社の承継提案を持ち込み、(3)関心を持ってくれた買い手候補に対して自社の情報開示を行う。事業を承継したいという買い手が見つからなければ、廃業に追い込まれることもある。

一方、取引実行のための実務手続を遂行するプロセスは、複数の専門家の業務に依存せざるを得ない。公認会計士や弁護士などの複数の専門家の支援を受けながら、最適な取引スキームを立案し、売却価格などの契約条件の交渉を行い、契約を締結して取引実行まで辿り着くこととなる。この中では、公認会計士に求められる役割は大きい。

第三者承継の実務手続は、さまざまな論点を一つ一つ解決する行為の積み上げといっても過言ではない。このため、売り手の意思決定の判断材料として、各分野における専門家のアドバイスを活用する。一般的に、第三者承継において必要とされる専門性は、以下のような分野である。

① 弁護士による契約書の作成
② 税理士による取引スキームの立案
③ 公認会計士による財務デュー・ディリジェンス
④ 金融機関からの買収ファイナンス
⑤ 環境コンサルタントによる土壌汚染の調査
⑥ 不動産鑑定士による土地の評価

しかし、様々な専門家から提供される高度かつ難しいアドバイスを集中的に受けて、売り手である企業経営者がそれを即座に理解することは容易ではない。そこで求められるのが公認会計士による専門家のコーディネートである。すなわち、公認会計士が各専門家と売り手経営者との間に入り、様々な論点を売り手にわかりやすく丁寧に説明することが重要な役割となる。

著者紹介

岸田 康雄 (きしだ やすお)

事業承継コンサルティング株式会社 代表取締役
島津会計税理士法人東京事務所長
公認会計士、税理士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)

一橋大学大学院商学研究科修了(経営学および会計学専攻)。 中央青山監査法人(PwC)にて事業会社、都市銀行、投資信託等の会計監査および財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、メリルリンチ日本証券、SMBC日興証券、みずほ証券に在籍し、中小企業経営者の相続対策から大企業のM&Aまで幅広い組織再編と事業承継をアドバイスした。 現在、相続税申告を中心とする税理士業務、富裕層に対する相続コンサルティング業務、中小企業経営者に対する事業承継コンサルティング業務を行っている。 日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員。中小企業庁「事業承継ガイドライン」改訂小委員会委員。

著書には、「プライベート・バンキングの基本技術」(清文社)「信託&一般社団法人を活用した相続対策ガイド」(中央経済社)「資産タイプ別相続生前対策完全ガイド」(中央経済社)「事業承継・相続における生命保険活用ガイド」(清文社)「税理士・会計事務所のためのM&Aアドバイザリーガイド」(中央経済社)、「証券投資信託の開示実務」(中央経済社)などがある。