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中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方②〜親族外事業承継(M&A)における情報開示〜

2018年06月06日  

買い手候補へM&Aの買収提案を行った結果、買収への関心を示してきた場合、自社の情報を開示し、その内容を理解してもらう必要がある。その手段は、①インフォメーション・メモランダムの開示及び②経営者によるプレゼンテーションである。事業を高く売却するにはどのように情報開示を行えばよいか説明する。

1 買い手候補のリストアップと絞り込み

買い手先候補を見つけ出す方法には、以下の三つが考えられる。

① 売り手経営者が自ら買い手を探し出す方法
② 売り手経営者の代わりに公認会計士が探し出す方法
③ 金融機関からの紹介を受ける方法

この中で最適な方法は、売り手経営者が自ら買い手候補を探し出す方法と考えられる。なぜなら、業界情報に精通しており、業界団体における交流等を通じて同業他社の経営者との付き合いがあることから、業界内で最適な買い手候補が誰なのか認識している可能性が高いためである。ただし、買い手候補を検討する際、売り手経営者は、情報漏洩等を懸念して、同業者(競合他社)に提案することに消極的なケースも見られる。
しかし、自社の事業価値源泉の維持存続という観点から、対象会社の事業価値を理解し、それを確実に承継できる最適な買い手は同業者である可能性が高い。

一方、売り手経営者自身、買い手候補が思い浮かばない場合、取引金融機関に売却の相談を行うこと公認会計士に依頼することも有効な選択肢となる。金融機関には様々な企業情報が集積されていることもあり、金融機関経由で買い手候補が見つかるケースも多い。

2 対象会社の情報開示

買い手候補へ承継提案を行った結果、買収への関心を示してきた場合、自社の情報を開示し、その内容を理解してもらう必要がある。その手段は、①インフォメーション・メモランダムの開示及び②経営者によるプレゼンテーションである。

2-1 インフォメーション・メモランダム

買収という買い手の意思決定には、その判断材料となる情報が必要とされ、対象会社の情報開示が必要になる。ただし、情報開示に伴う情報漏えいなど様々なリスクが想定されるため、情報開示の前には「秘密保持契約」を締結しておかなければならない。

情報開示の方法の一つは、インフォメーション・メモランダムの開示、すなわち、買い手候補が買収価格を算定するために必要な情報を一式まとめたパッケージを開示することである。買い手候補は、このインフォメーション・メモランダムを材料として交渉に入るか否か、どの程度の買収価格の提示が必要か検討することになる。買収価格の算定は、買い手候補にとって極めて重要な検討プロセスであるため、事業価値を評価するために必要十分な情報が提供されなければならない。

インフォメーション・メモランダムによって事業価値を買い手候補に十分に理解・評価してもらうためには、特に「分かりやすさ」と「数値の裏づけ根拠」の二つがポイントとなる。

インフォメーション・メモランダムに記載すべき情報

(1) 会社概要
設立年月日、沿革、株主構成などの基本情報、会社パンフレットなど

(2) 事業の概要
業界動向の分析(競合他社の説明、市場占有率)
製品カタログ、製品の強みを説明
商流図、事業系統図、子会社との資本関係
主要な固定資産(土地、建物、機械設備など)のリスト
事業別・地域別・製品別売上高明細書
得意先リスト(売上高上位10社)
仕入先リスト(仕入額上位5社)
許認可、知的財産権のリスト

(3) 組織の情報
組織図(各部署ごとの人数)
経営陣の紹介(担当職務、略歴)
従業員(名前は個人情報なので隠すが、職種と年齢、保有する技能や資格を記載)
社内規程(就業規則、退職金規程など)

(4) 財務情報
過去3年間の財務諸表(P/L、B/S、C/F)
直近の事業年度の税務申告書
土地の時価情報
生命保険の解約返戻金の情報
退職給付債務
銀行借入金、保証債務の明細書(銀行名、残高、返済期限、月額返済額、利率など)

(5) 事業計画
将来3年~5年の損益予測、運転資本予測、投資計画(減価償却費)
具体的な事業戦略の説明(経営環境に対する見方、投資計画の詳細、営業計画、組織・人事計画、製造、情報システム、財務)

なお、交渉の初期段階では対象会社の機密情報まで出す必要はなく、たとえば、製造原価明細や工程レイアウト図など極めて重要な企業秘密、工場の土壌汚染などの深刻なマイナス情報については、大まかな概要だけの説明にとどめ、詳細は後から実施されるデュー・ディリジェンスにおいて開示するようにすればよい。

2-2経営者によるプレゼンテーション

もう一つの情報開示の方法は、トップ・ミーティングによる経営者からのプレゼンテーションである。財務情報など定量的な情報は、書面で開示すれば買い手候補もある程度内容を理解できるが、事業内容や事業戦略などの定性的な情報は、経営者による口頭説明を必要とする。買い手候補に対するプレゼンテーションでは、対象会社のビジネスの中身(例えば、直近の財務内容、事業内容、経営戦略など)を適切に伝えることが不可欠である。それが、買い手候補に自社の事業価値を適切に理解してもらうための手段となる。

なお、買い手候補に事業価値を適切に理解・評価してもらうためには、事業価値源泉の理解を促すことが重要であるため、例えば製造業の場合には、プレゼンテーションだけでなく工場見学会を設けることも一つの方法である。というのも、同業者であれば、工場内を見渡せば技術力、生産能力、機械設備の稼働状況等の実態をある程度評価できるためである。
また、情報開示の結果、買い手候補から多くの質問が出されることが想定されるため、想定される質問項目に対しては、予め回答を用意しておくことが望ましい。

著者紹介

岸田 康雄 (きしだ やすお)

事業承継コンサルティング株式会社 代表取締役
島津会計税理士法人東京事務所長
公認会計士、税理士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)

一橋大学大学院商学研究科修了(経営学および会計学専攻)。 中央青山監査法人(PwC)にて事業会社、都市銀行、投資信託等の会計監査および財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、メリルリンチ日本証券、SMBC日興証券、みずほ証券に在籍し、中小企業経営者の相続対策から大企業のM&Aまで幅広い組織再編と事業承継をアドバイスした。 現在、相続税申告を中心とする税理士業務、富裕層に対する相続コンサルティング業務、中小企業経営者に対する事業承継コンサルティング業務を行っている。 日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員。中小企業庁「事業承継ガイドライン」改訂小委員会委員。

著書には、「プライベート・バンキングの基本技術」(清文社)「信託&一般社団法人を活用した相続対策ガイド」(中央経済社)「資産タイプ別相続生前対策完全ガイド」(中央経済社)「事業承継・相続における生命保険活用ガイド」(清文社)「税理士・会計事務所のためのM&Aアドバイザリーガイド」(中央経済社)、「証券投資信託の開示実務」(中央経済社)などがある。