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100年経営研究機構 後藤代表理事×税理士・公認会計士 岸田康雄氏 対談 ~ファミリービジネスの事業承継に必要な「家族の対話」への支援~

2018年11月06日  

2018年、政府が主導となり中小企業庁と若手経営者の4団体から成る「全国事業承継推進会議」が発足し、同年10月29日にキックオフとなる第1回目の会合が開かれた。政府は、2025年までにM&Aによる親族外事業承継を含めた、事業承継の集中的な支援を行っていくことを発表している。しかし、親族外事業承継を推し進める風潮に警鐘を鳴らしているのが、ファミリービジネスの研究者であり100年経営研究機構の代表理事である後藤俊夫氏だ。

今回、中小企業オーナーの相続や事業承継のプロフェッショナルとして名高い、公認会計士・税理士の岸田康雄氏(事業承継コンサルティング株式会社代表取締役)が、後藤氏とともにファミリービジネスの事業承継において本当に必要とされる支援は何かについて語り合った。

「家族」という観点からのファミリービジネスの再検討を

岸田康雄(以下「岸田」):最近、日本公認会計士協会で中小企業の事業承継支援に力を入れていまして、協会から中小企業庁に派遣されて事業承継ガイドラインの作成に携わり、協会を通してディスカッションさせていただいています。

後藤先生がご著書で書かれている通り、日本の法人企業の約97%はファミリービジネス(同族経営)です。事業承継というと、税務や法務のことばかりが強調されがちなのですが、家族という側面からファミリービジネスを再度検討すべきだと思っています。

後藤俊夫(以下「後藤」):おっしゃるとおり、日本のほぼすべての中小企業はファミリービジネスであり、従業員数でみても、日本の雇用の4分の3をまかなっているほど日本経済を支える主役になっています。さらに、上場企業でもファミリービジネスのほうがノンファミリーより収益性、安全性ともに優れていることがうかがえます。

しかし、日本ではファミリービジネスというとどうしても後ろめたい印象がつきまとう。先日、あるところでファミリービジネスがいかに素晴らしいかという話をしたら、「そんな風に言われたことなんて今までになかった」と涙を流した経営者がいたんですよ。ファミリービジネスの当事者の方が、自分の仕事に誇りを持つか持たないかで、後継者となる子どもに対する態度もその姿を見る子どもの気持ちも変わってくるものです。

岸田:ファミリービジネスの事業承継では、経営以外の要素として、ファミリーという極めて情操的な要素もからむので、家族間の人間関係も重要になってきますよね。ファミリービジネスの事業承継を考えるには、人間を理解するところから入っていって、家族それぞれの感情、人生あるいはキャリアプランのことまで考慮に入れなければなりません。

この文脈でいうと、行政は事業承継税制などの事業承継の政策的支援はしているものの、後継者のメンタル面やキャリアプランなど、人間的な感情にアプローチするという視点が些か欠けているよう思います。この点に踏み込むのが難しいことは承知の上で、しかし現在のように全く考慮されない形で事業承継を捉えようとしても、円滑な事業承継支援は展開できないと思っているのですが、後藤先生はどうお考えでしょうか。

後藤:実は事業承継の問題は世界中どこにでもあって、日本固有の問題ではないんです。日本にも中国にも欧米にも共通するのが、後継者候補となる若い人たちのメンタリティに付随する問題。例えば、今お付き合いのある中国の企業では、若い人たちは「家業を継ぐより自分で起業したい」と言っているんですね。日本でも同様に、都市部の大企業に勤めたいという後継者がいる一方で、親の敷いたレールをそのまま歩むより、「起業したい」と考えておられる後継者もいるんですよ。

一方で、私が関わっている後継者候補の学生たちは、事業承継というと親から継いだものをそのまま経営しなければならないと考えている傾向が強い。だから「家業を継ぐなんてださい」「自分の好きなことができない」という固定観念があり零すわけです。たしかに代々同じ事業をずっと続けられている企業もありますが、そうでない企業もたくさんありますよね。時代が移ろいゆく中で、経営を取り巻く環境も顧客も日々目まぐるしく変わる。その変化にうまく対応してきたからこそ、日本企業各社は今日まで続いているわけです。むしろ、後継者には事業の在り方を変えていくことが期待されているんだから、好きなことをやっていい。僕はそういう承継の仕方を「ベンチャー型事業承継」と呼んでいるのですが、こういう切り口で話をすると彼らの目の色が変わるんですね。

相続税負担が大きい日本で長寿企業が多い理由

岸田:日本において家族間で事業承継を行う際に壁となっているのが、相続税の負担が大きいという問題です。ヨーロッパでは相続税という概念がないので、昔からあるような有名なファミリービジネスの企業では、数百億から数千億という財産を築いています。しかし、日本のファミリービジネス各社は事業承継が起こる度に税金を納め、複数世代を跨ると相続税で財産が半分持っていかれるような状態です。この相続税について、諸外国と日本でとらえ方が大きく違うなと感じています。

後藤:仰る通り。よその国では、相続税は減っているかゼロという国がほとんどですよね。それなのに、日本では日本全体の税に占める相続税の比率は非常に少ないにもかかわらず、諸外国と大きな差がある。その背景に、諸官庁が税金を取れるところから取ろうとしていることと、平等性という観点から貧富の差を是正しようとしていることがあるわけです。

岸田:だから、相続を控えている企業が実におかしな行動をとりますよね。本来企業は「儲かっている」ことが尊ばれてしかるべきなのに、相続を控えた企業は、業績をわざと悪くして評価額を下げ相続しやすいように工夫するところが一部であります。これを単純に悪と切り捨てることは相続の現場を目にすると、とてもできません。経営者たるもの、誰しも企業の永続的発展を願うものです。ところが、相続を念頭におかずに無思慮に経営をしていくと、子供に引き継がせることがおいそれとできなくなってしまう厳然たる現実があるわけですから。税負担を軽くしたいというのは、これはもう経営者の性ですから、第三者の立場から見ていて、「本来こうあっていいものなのか」と疑問に思います。

しかし、こうした過酷な条件のもとであるにもかかわらず日本ではファミリービジネスが長く続いているんですよね。100年以上の社歴をもつ企業数は、世界随一です。これを経営者の涙ぐましい努力という言葉に集約してしまってよいのか。いったいなぜなのでしょうか。

後藤:ひとつは、条件が厳しい中でもいろんな工夫をして家を続けようとしてきたという歴史の流れがあるのではないかと思います。封建時代の武士階級では、武士の家がつぶれたら周りにいる部下の侍たちも食い扶持がなくなるわけですから、武士が家を継ぐことが一番重要だったんですね。それを見て商人が真似をしたわけです。

一部では「その家にたまたま生まれたからといって、財産をすべて引き継ぐのはおかしい」と言われる向きもありますが、私からすれば、ファミリービジネスの「家」をずっと継承していくという考えの重要性が現代社会ではどうも軽視されているように思います。企業が長く続くということは関わるステークホルダーに対して安定的に貢献していくことに他なりません。こうした一社一社の持続性ある活動の先に、日本経済が底座さえされていることは明白です。この2つを踏まえた総合的な視点で相続税を議論する場があってほしいと思います。

ファミリーが企業経営への影響力を保持し続けることのできる仕組みとは

岸田:事業承継の問題は税の問題でもあります。相続税の非常に高い日本では、株式をずっと所有していることは難しいですから、子や孫に株式の分散をしていく。そうして世代を超えていくと、知らない株主が形成されてしまう。その最たるものが上場ですよね。上場すると、いくらファミリービジネスといってもファミリーが過半数の株を持ち続けるのは難しい。にもかかわらずファミリービジネスが今日まで続いているのは、「所有なきビジネス」ともいうべきものが長く続いているということなのでしょうか。

後藤:「ファミリーが筆頭株主で、かつ役員を一人以上出している」というところは、東証一部上場企業全体で約25%あります。しかし、筆頭株主でも持ち株率が50%を超えているとは限らない。だんだん筆頭株主の持ち株比率が下がっていくことはあるけれど、持ち株比率が1位ならば株主としての影響はほぼ確実なものになるだろうと言えます。

岸田:でも、代々受け継いでいるうちに、兄弟同士で株式を保有するということもありますよね。

後藤:戦前は、長男だけに株式を含め財産をすべて相続させて、次男や三男には相続させない「長子相続」という方法を取っていました。一方、戦後は平等に相続させるけれど株式は経営に関係する相続人に集中させて、それ以外の子どもには株式以外の資産を相続させる方法を取っていますよね。だから兄弟で株式を持ち合うことも当然あります。

岸田:兄弟で株式を持ち合うと、次の世代に引き継ぐといとこ同士で持ち合うことになる。いとこ同士だと普段からあまり身近に接することもなければ「同じ釜の飯を食う」こともないわけですから、何か問題が起きたらけんかになりかねないですよね。だから兄弟で株式を持ち合うことは、リスクになるので避けなければいけないと考えられています。

後藤:たとえばエスビー食品の場合は、株式を持っていた兄弟3人が「山崎兄弟会」という任意組合を設立して、株式をそこに集中させたんですよ。今は代替わりしていとこ3人になっていますが、配当はそれぞれがほぼ同じ比率で得ているんですけど、株式自体は分けることができないようになっているんです。山崎兄弟会ができたのは創業者の代ではなく、過去に乗っ取られる危機があったからできたんですけど、どこかのタイミングで株を集中させよう、持株会を作ろうという意見がファミリー内で統一されなければそういうことはできなかったわけです。

「引退など考えられない」という先代をどう見るか

岸田:経営に於いてファミリーの影響力を保持するために株式を集中させる話をするときに、どうしても先代の引退後の話がでてきますよね。事業承継に関わる経営者には2つパターンがありまして、1つはずっと昔に創業して現在○代目という経営者の方、もうひとつは自分がつくった創業者である経営者の方。前者は、事業を引き継いだ身なので自分も次代に継がなきゃいけないという責任感がある一方、ご自分が起業された方は「自分がいないと事業が立ち行かない」という意識が非常に強いんですね。なので、この両者ではメンタリティが異なると思うのですが、いかがでしょうか。

後藤:日本だけでなく、世界中似たようなものですよ。特に、創業者は「自分とファミリービジネスは一心同体。だから引退なんか考えられない」と思うものです。そんな中でルールを作ったり、周りがいさめて経営者を引退させたりすることで事業は今日まで続いてきた。ところが最近では中小企業庁がM&Aによる多様な事業承継を押し進めようとしている。親族外の第三者に会社の所有権を渡してしまったら、ファミリービジネスとしての強みは当然失われてしまうので、あまりにも安易に親族外承継がよしとされる風潮には警鐘を鳴らしたい。

岸田:事業承継ができなくなれば、そこで働く従業員の雇用の存続にも関わってくるので、それを解消するために行政はM&Aを視野に入れた親族外の事業承継に力を入れるようになっているんですよね。官民はじめ様々な団体が積極的にやろうとしているけれど、思うようにうまくいっていないという現状があります。

後藤:うまくいっていないですよね。フランスのことを研究している人によれば、フランスでは親族間での事業承継は2割を切っていて、大半が親族外事業承継になっていると言います。それをEUが後追いして、そのEUを日本が後追いしているという状況になっているんですね。後継者いなければ会社がつぶれちゃうでしょ?雇用もなくなるでしょ?という理屈はわかるけれど、ではフランス経済がそれで活気があるかというと、どうでしょうか。やはり、ファミリービジネスは家族間で継ぐのが本来の自然な形だと思います。そのための方策がもっとあるんじゃないでしょうか。

岸田:その方策のひとつが、親子の対話ですよね。でも最近親子だけでは対話が成り立たないようになっていると耳にします。だから、税理士や会計士などの専門職が第三者として間に入っていく必要がある。

後藤:最近、FBAA(Family Business Adviser Association)という組織が日本にできたんです。これは、事業承継をはじめとするファミリービジネス特有の問題を解決するための専門職の方の集まりで、税理士や会計士、弁護士のほかにコンサルタントやセラピストの方も多数所属しておられます。そこではアドバイザーの認定試験があって、その合格者が100名以上いるんです。

私も顧問としてこの組織に所属しているんですが、ここではカウンセリングに近いこともやるので、ファミリービジネスのことで悩んだ人たちの駆け込み寺になっているんですよ。会計士や税理士だけでなく、人のメンタル面に詳しい方もいるから。

岸田:親子の対話が成り立たないときも、FBAAに行けば相談に乗ってもらえそうですよね。あと、第三者として親子の会話を仲介してくれるとか。

後藤:それに関して面白い話があるんですよ。先代が亡くなって先代の奥さんが社長で、息子が取締役をしている酒屋さんを訪問したことがあるんです。そこの奥さんと息子さんが仲が悪くて、普段は業務連絡をしあうだけで込み入った話はしないらしいんですよね。だから私は「月1回でいいから、顧問の公認会計士に入ってもらって幹部会議をやったらどうだ」と提案したんです。そこで、2人が公認会計士の事務所に行って話をしてみたら、会話が成立したんですよ。

岸田:会計士はそこにいるだけで発言はしなかったけれど、先生がそこに鎮座しているだけで、けんかにならずにまじめに話し合いができるようになったというわけですね。やはり第三者の仲介は大事なんですね。公認会計士や税理士がこのような役割をもっと担っていくべきだと思います。

後藤:立場としては公認会計士や税理士が一番やりやすいでしょうね。会計士や税理士の先生方がみんなFBAAのアドバイザーになれば、そういうことできるのかもしれません。

岸田:今日は非常に勉強になりました。お話を伺って、ファミリーのビジネスの重要性、価値の大きさを再認識すべきだと思いました。行政の方は、税務と法務は熱心に考えてくれますが、ファミリービジネスの事業承継を単なるビジネスの承継としかとらえていない。親子の対話や従業員との対話といったメンタルな側面での支援も、事業承継では重要な要素になるのに、行政も商工会議所もそこまで支援の手が行き届いていません。行政だけでなく、我々のような税理士・会計士も親子の対話や従業員との対話といったところまで、一歩踏み込んだ支援をしないことには、事業承継の問題は解決しないと思いますね。

後藤:日本における中小企業のための施策は世界に冠たるものがあるわけですよね。中小企業基本法を成立させ、中小企業庁を作って、毎年中小企業白書も出している。施策については至れり尽くせりの施策があったと思うんですよ。しかし、そこにファミリーという視点が抜け落ちてしまっている。ファミリービジネスの事業承継は、心理学や家族社会学なども動員しながら、親子の対話や経営者・後継者双方に寄り添った支援が必要だと思います。

Profile

後藤俊夫(ごとう・としお)

100年経営研究機構 代表理事、日本経済大学大学院 特任教授。1942年生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後に日本電気株式会社 (NEC Corporation)に入社し、1974年ハーバード大学ビジネススクールにてMBAを取得。1999年静岡産業大学国際情報学部教授、2005年光産業創成大学院大学統合エンジニアリング分野教授を経て、2011年より日本経済大学渋谷キャンパス教授に就任。同経営学部長を経て、2016年4月から現職に就く。日本における長寿企業やファミリービジネス研究の第一人者であり、精力的に教育活動や講演・セミナーなどを行っている。

岸田康雄(きしだ やすお)

税理士・公認会計士・中小企業診断士。中央青山監査法人 (PwC)にて金融機関の会計監査及び 財務デュー・ディリジェンス業務に従事。メリルリンチ日本証券、SMBC日興証券、みずほ証券に在籍中、中小企業オーナーの相続案件から大企業のM&A案件まで数多の事業承継と組織再編をアドバイスした経験を持つ。著書に「事業承継・相続における生命保険活用ガイド 活用手法と税務」 (清文社)や「信託&一般社団法人を活用した 相続対策ガイド」 (中央経済社)など。