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★速報★ ついに出た!平成31年税制改正大綱「個人版事業承継税制」の全体像を解説!法人版と同じく的外れな中小企業政策!資産家の節税手段として活用!

2019年01月07日  

個人事業主による事業承継をしやすくするため、個人版事業承継税制が創設されました。子供など後継者が事業を引き継ぐ際に土地や建物にかかる贈与税などの支払いを猶予する新たな税優遇制度です。
税負担の大きさが問題となるほど大きな固定資産を所有する個人事業主が、廃業の危機に瀕しているとは到底思えませんが、税負担を軽減することが廃業を防ぐと勘違いしている政府が作った制度です。
本日はこちらの制度を解説します。

中小企業の現実が見えていない政府の勘違い

私見ですが、中小企業の現実が見えていない政府の勘違いは未だ解消されていないようです。「70歳を超える個人事業主は2025年までに約150万人!後継者不在で廃業する中小企業を防ぐ!事業承継税制が必要!」と叫ばれていますが、廃業の危機に瀕する個人事業主のほとんどは、個人財産の大きさが相続税の基礎控除を下回っており、税金の問題とは無関係です。つまり、個人版事業承継税制は、個人事業主に役に立つものではなく、的外れな政策だと言えそうです。

また、筆者が支援する地方の小売店や町工場の資産承継については、土地は小規模宅地等特例(特定事業用資産)の適用で相続税ゼロですし、建物も評価額も概ね1,000万円程度ですから、相続時精算課税を適用してこちらも相続税ゼロです。また、什器備品、営業用車両の贈与行を行うケースはほとんど無く、後継者が曖昧に共有していれば、そのうち壊れて消えてしまいます。

中小零細の個人事業主が、贈与税・相続税の問題で廃業するケースなど皆無なのですが、政府はこの現実を全く見ていないようです。それゆえ、この事業承継税制は、法人版も含めて、大規模な資産を所有し、大きな相続税負担の軽減を図りたい資産家の方々の節税手段として活用すべきものということになりそうです。

平成31年税制改正大綱に見る個人版事業承継税制

それでは、平成31年税制改正大綱を見ていきましょう。相続税の制度と贈与税の制度の両方が設けられていますが、事業承継を目的として適用すべきものは贈与税の制度です(相続税の制度を適用するということは、先代経営者が死ぬまで事業用資産を手放さないということで、これは事業承継対策を何もしないということを意味しており、最悪のケースだからです。)。これによれば、以下のように説明されています。

①認定受贈者(18歳(平成34年3月31日までの贈与については、20歳)以上である者に限る。以下同じ。)が、平成31年1月1日から平成40年12月31日までの間に、贈与により特定事業用資産を取得し、事業を継続していく場合には、担保の提供を条件に、その認定受贈者が納付すべき贈与税額のうち、贈与により取得した特定事業用資産の課税価格に対応する贈与税の納税を猶予する。

詳しいことは記載されていませんが、基本的に法人版事業承継税制と同じ手続きを行うことになるはずです。すなわち、今後5年間に特例承継計画を都道府県庁に提出し、10年間で贈与又は相続を行うという手続きです。
法人版事業承継税制の期限が平成39年12月31日まででしたが、個人版事業承継税制の期限が平成40年12月31日までとなっていますので、期限は1年ずれています(個人的見解ですが、法人版事業承継税制も期限到来時には、おそらく1年間延長されることでしょう。)。同様に、特例承継計画の提出期限も1年先になっています。特例承継計画は、補助金申請時に書くような「5年間の事業計画」を書くようになっています。法人には顧問税理士が付いていて、事業計画の書き方を指導すると思いますが、個人事業主には顧問税理士が付いていない可能性があり、その場合、適切な事業計画を書くことができるのか疑問です。
「特定事業用資産」というものを贈与した場合の納税が猶予されることになりそうです。この制度の対象となる資産の定義が問題となります。そこで、相続税の制度の注記を参照しますと、以下のように記載されていました。

(注2)「特定事業用資産」とは、被相続人(→贈与者)の事業(不動産貸付事業等を除く。以下同じ。)の用に供されていた土地(面積400㎡までの部分に限る。)、建物(床面積800㎡までの部分に限る。)及び建物以外の減価償却資産(固定資産税又は営業用として自動車税若しくは軽自動車税の課税対象となっているものその他これらに準ずるものに限る。)で青色申告書に添付される貸借対照表に計上されているものをいう。

「特定事業用資産」として制度の適用対象は以下の資産となりました。
・土地(面積400㎡まで)
・建物(床面積800㎡まで)
・機械設備や什器備品(償却資産税の対象、青色申告)
・車両(自動車税等の対象、青色申告)

細かいですが、「貸借対照表に計上されているもの。」という要件がありますので、青色申告で貸借対照表を作成しているとしても、事業用資産を勝手に簿外処理していたり、未償却残高がゼロまで到達していたりすると、制度を適用できないということになります(簿価ゼロであれば、評価額ゼロで、贈与税ゼロとなり、そもそも制度の適用は不要ですが。)。
ちなみに、不動産賃貸業が除外されています。つまり、アパート・マンションの賃貸経営を行っている個人事業主は、適用対象とはならないということです。この点、アパート・マンションの賃貸経営であっても親族外従業員を5人以上3年間雇用していると適用することができる法人版事業承継税制とは、適用範囲が異なっています(法人版事業承継税制の趣旨は従業員雇用の維持でした。)。

②認定受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人以外の者であっても、その贈与者がその年1月1日において60歳以上である場合には、相続時精算課税の適用を受けることができる。

親族外であっても、相続時精算課税制度の適用を受けることができるとされています。しかし、親族外の人に相続時精算課税制度を適用しますと、贈与者が死んだときの作成する相続税申告書は、親族外の受贈者に見られることになりますので、他人に個人の相続財産すべてを開示しなければなりません。これがボトルネックとなりそうです。

③猶予税額の納付、免除等については、相続税の納税猶予制度と同様とする。
④贈与者の死亡時には、特定事業用資産(既に納付した猶予税額に対応する部分を除く。)をその贈与者から相続等により取得したものとみなし、贈与時の時価により他の相続財産と合算して相続税を計算する。その際、都道府県の確認を受けた場合には、相続税の納税猶予の適用を受けることができる。
(注)上記改正は、平成31年1月1日以後に相続等又は贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用する。

贈与税の納税猶予制度から相続税の納税猶予制度への移行手続き、猶予取消しの要件などは法人版事業承継税制と同様です。
また、個人版事業承継税制の適用スタートは、来年、平成31年(2019年)1月1日ということになっています。

小規模宅地等特例の改正

なお、この制度創設に併せて、小規模宅地等特例の改正が行われています。

「特定事業用宅地等に係る小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し」
小規模宅地等について相続税の課税価格の計算の特例について、特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等(当該宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、当該宅地等の相続時の価額の15%以上である場合を除く。)を除外する。
(注)上記の改正は、平成31年4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税について適用する。ただし、同日前から事業の用に供されている宅地等については、適用しない。

これは、特定事業用宅地に係る評価減(400㎡まで80%減額)を適用する場合、相続発生前3年以内に事業スタートしている人は対象にしないということを意味しています。例えば、90歳で死んだ被相続人が事業用の土地を所有してたとしても、その被相続人の事業開始が87歳(相続開始前3年以内)以降の場合は、特例が適用できないことになります。
常識的に考えて、87歳で創業・起業するような個人事業主がいるはずがないため、税理士等の指南に基づき3年以内に事業を開始する節税手段を封じ込めるものかと推測されます。

ちなみに、貸付事業用宅地については、平成30年に改正されていました。すなわち、貸付事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者が当該貸付事業の用に供しているものを除く。)は、特例が適用できないものとされていました。
いずれにしても、逆に考えれば、相続発生前3年超の期間をおいて事業(普通の事業経営、不動産賃貸経営)を開始すれば、特例が適用できるということですから、実務の現場において大きな影響が出るものではないと考えられます。相続発生前3年以内で新たに事業を開始したり、不動産賃貸を開始したりするケースは、「親が死にそうだから何とかしてくれ!」という状況、これはもはや手遅れであるため、節税は潔くあきらめたほうがいいでしょう。