事業承継支援研究会

第3回 事例研究問題

2017年11月26日  

12月4日第3回事業承継支援研究会にて用いる予定の問題を事前掲載いたします。
下記の画像をリンクしていただくことでPDFが開きますので、ご利用ください。

12月4日 第3回事業承継支援研究会 事例研究問題

事例研究5

事例

B社(旅館業、従業員数30人、売上高3億円、当期純損失▲1百万円、純資産3億円)は、北海道の地方都市にある創業100年の老舗旅館であり、3代目の甲社長(65歳、代表取締役)が株式10,000株(発行済議決権株式の100%)を所有しています。甲社長の妻である丙は、女将として会社を支えています。
旅館は、昭和初期に建てられた純和風の建物、自然と一体化した混浴露天風呂を提供しており、日本人客からは長年愛されてきました。一方、この地域には、海外からインバウンドの外国人客が増えてきており、多数の競合他社がホテルを新築しました。これらは、お洒落な西洋風の建物、スタイリッシュな専用露天風呂を各部屋に完備したホテルであり、外国人からの評判がとてもよいとのことです。
3年前に甲社長の一人息子である乙部長(40歳、営業部長)がB社に入社し、現在は営業部長として働いています。甲は、学生時代にイタリア留学し、A社に入社する前は、マスコミで採り上げられる有名なHリゾート社で働き、ホテル業務をしっかりと勉強し、トップ・セールスマンとして確かな実績を残してきました。

B社の事業承継を考えるようになった乙部長は、B社の経営環境を分析しました。営業マンとして常に売上拡大を考えている乙部長は、内部の経営資源の検討は後回しにして、外部の市場環境を集中的に分析したところ、今後も外国人観光客は確実に増加し続けるものと判断されました。その結果を踏まえ、乙部長は、「経営環境が変化している。これまでのような和風旅館では事業は存続しない。私は、イタリア留学時代に学んだデザインと、前職のHリゾート社で学んだ最新のサービスを、外国人客向けのお洒落なホテルという新しい業態で実現させ、自らこれを経営してみたい。ちょうど建物の大規模修繕の時期だから、自分の理想を実現するチャンスではないか。」と考えました。

このような乙部長の想いを実現させるため、綿密に練った経営計画を立案し、それを両親に説明したところ、甲社長からは、「何を馬鹿なことを言っているのだ!うちは100年続いた和風旅館だぞ、純和風で趣のある混浴温泉が当社の伝統だ。西洋風のホテルなど絶対にダメだ!」と猛反対されました。
ショックを受けた乙部長は、事業承継支援を専門とする中小企業診断士のあなたに相談してきました。
あなた:「ところで、乙さん、会社の決算書は見たのですか?」
乙部長:「いえ、まだ見ていません。」
あなた:「決算書を見ないと、財務内容がわからないでしょう?決算書も見ないで会社を継ごう、業態を転換しようなんて考えているのですか?」
乙部長:「おっしゃる通りですね。すぐに入手します。」
中小企業診断士のあなたは、乙部長にどのような指導を行いますか?

問題

【問1】
決算書を見ると、当年度の業績悪化は恒常的なものであり、ここ数年は大幅な赤字が続いていました。乙部長はどのように事業承継を行うべきでしょうか?

【問2】
決算書を見ると、当年度の業績悪化は、一過性の特別損失を計上したことによるものであり、ここ数年は大幅な黒字が続いていました。乙部長はどのように事業承継を行うべきでしょうか?

ヒント

「支配権」  株式承継(法人)又は不動産承継(個人)、分割と税負担
「借入金」  個人保証の引継ぎ、解除
「リーダー」 社長と従業員との信頼関係、経営理念、リーダーシップ
「管理」   従業員・組織の管理、規則、コンプライアンス
「戦略」   企業の収益性と成長性の維持、新規事業
「知的資産」 顧客関係、営業力、技術・ノウハウ、許認可

事例研究6

事例

甲社長(65歳)は、A社(飲食店チェーン業、従業員数150人、売上高10億円、当期純利益5千万円、純資産5億円)の2代目社長です。創業者である父から5年前に相続で承継した株式4,900株(発行済議決権株式の49%)を所有し、これまで代表取締役社長として頑張ってきました。
他界した父親からは、「兄弟で力を合わせ、家業を継いでほしい。」と言われており、A社には、甲社長の弟である乙専務(専務取締役、63歳)が役員に入っています。兄弟は、若い頃は仲が良かったのですが、最近は会社経営のやり方を巡って喧嘩が多くなり、ほとんど会話することが無くなってしまいました。

引退を考えるようになった甲氏は、一人息子である長男である丙(40歳)への事業承継を考えるようになりました。丙は、大学卒業後、大手銀行勤務、MBA留学を経て、35歳で入社し、現在、経理部長として働いています。

この一方で、A社では、乙専務の息子である丁(乙氏の長男、40歳)が営業部長として働いています。丁は調理師専門学校を卒業してすぐに入社し、調理師、2箇所の店長を経て、現在は、新店舗開発や海外からの食材仕入などの仕事でA社の成長に貢献し、多大な実績を残しています。そのため、丁は従業員からの信頼は厚く、絶大な人気があります。
甲社長は、「息子の丙は経営者としてまだまだ未熟だが、丁が社長の右腕となって丙を支えてくれるだろうから、来年から丙を社長にしても大丈夫だろう。」。と考えています。

A社の株主構成は以下の通りです。

※ 甲社長の長男である経理部長丙と、乙専務の長男である営業部長の丁は、株式を所有していません。
顧問税理士による株式の相続税評価@20,000円×10,000株=2億円

ある日、メインバンクである東武信用金庫が、事業承継支援を専門とする中小企業診断士であるあなたを連れて面談を行いました。
甲社長:「先生、私は来年引退し、息子の乙を社長にしようと思います。うちは従業員持株会がうまく機能しています。業績向上に向けて従業員のモチベーション向上をもたらすだけでなく、私たち株主の持株数を減らすこともできましたので、相続税対策にもなっているのですよ。それでも創業家は株式の過半数を握っていますから、支配権は安泰です。事業承継の成功事例として採り上げてみてはいかがですか?ガハハハ。」
あなた:「社長、おっしゃる通り、うまくいくといいですね。しかし、事業承継を進める前に、一度冷静に考えてみましょうか。」
あなたは甲社長と面談において、A社の事業承継をアドバイスすることになりました。

問題

【問1】
あなたはA社の事業承継に重大な問題があることに気づきました。それは何ですか?

【問2】
A社の問題の解決策を提示してください。

ヒント

「支配権」  株式承継(法人)又は不動産承継(個人)、分割と税負担
「借入金」  個人保証の引継ぎ、解除
「リーダー」 社長と従業員との信頼関係、経営理念、リーダーシップ
「管理」   従業員・組織の管理、規則、コンプライアンス
「戦略」   企業の収益性と成長性の維持、新規事業
「知的資産」 顧客関係、営業力、技術・ノウハウ、許認可