第5回 事例研究問題
2月19日(月)第5回事業承継支援研究会にて用いる予定の問題を事前掲載いたします。
下記の画像をリンクしていただくことでPDFが開きますので、ご利用ください。
5回事業承継支援研究会 事例研究問題
事例研究9(M&Aにおける買い手探し)
事例
A社(機械製造業、従業員数20人、売上高10億円、営業利益8千万円、当期純利益3千万円、純資産2億円、現金預金5千万円、借入金1億円、土地の時価1億円)は、関東の地方都市にある創業50年の町工場であり、創業者である甲社長(代表取締役、75歳)が株式100%を所有しています。
しかしながら、子供は会社を継ぐ気がなく、親族は誰も会社で働いていません。そこで、中堅社員として頑張っている乙部長(45歳、営業担当)を後継者にしようと考えました。
甲社長は乙部長に「会社を継いでほしい。」と1ヶ月にわたって説得してみましたが、乙部長からの最終回答は、「じっくり検討したのですが、私が社長として働く自信がありません。後継者になるのは無理です。」とのこと、乙部長から後継者になることを拒絶されてしまいました。
そこで、顧問税理士に相談したところ、「M&Aで他社に引継いでもらうしかありません。」とのアドバイスを受け、業界最大手の仲介会社である日本M&Aサポート社を紹介してもらいました。
日本M&Aサポート社の営業担当者との会話は以下の通りです。
営業マン:「このリストをご覧ください。当社は情報力が強みであり、これだけの買い手候補をご紹介することができますよ。」
甲社長:「なるほど、上場企業も含めて、予想以上にたくさんありますね。これならば、お相手は見つかりそうですね。」
営業マン:「この中で、当社で検討した結果、豊富な資金力があり、事業戦 略が御社と似ていて今後の成長が期待できるのは、X社であると判断しました。X社の田中社長は人格的にも素晴らしい経営者であり、貴社の従業員を安心して任せることができます。近いうちにトップ面談を設定しますので、お会いになってみませんか?」
甲社長:「わかりました。ぜひお願いします。」
甲社長は、X社の田中社長と面談したところ、その一週間後には、X社から「A社と当社とのシナジー効果は抜群です。ぜひ当社に、事業をお譲りください。後日、意向表明書を提出します。」との連絡がありました。
営業マン:「最高のお相手です。ぜひX社に決めてください。当社が仲人役として両社を仲介しますよ。」
甲社長:「それではX社との交渉を進めてください。御社にお支払する手数料はどうなっていますか?」
営業マン:「手数料はレーマン方式によって計算します。こちらの業務委託契約の締結をお願いします。私が仲人役となり、ハッピーなM&Aを仲介しますよ!」
問題1
甲社長はM&Aの売却先をX社と決めてよいでしょうか。
問題2
日本M&Aサポート社の契約内容を確認したところ、買い手と売り手の双方にアドバイスを提供し、双方から報酬をもらうとのことでした。
また、以下の内容が入っていました。
「当社以外の専門家の助言を受けてはならない。当社以外の専門家の助言を受けてM&Aが成立した場合であっても、成功報酬の全額を当社に支払うものとする。」
甲社長は、業務委託契約を締結するべきでしょうか。
M&A仲介会社との業務委託契約を締結した甲社長は、株式がいくらで売れるのか心配になり、聞いてみました。
甲社長:「私の株はいくらで買ってもらえるのですか?そちらのパンフレッ トに株価算定サービス無料って書いてありますよね、計算してもらえますか?」
営業マン:「一般的に、株価は【純資産+営業権】で計算することができます。営業権の評価が難しいところですが、一般的には、「年買法」 という方法が採られ、営業利益の3年から5年分だと言われています。そうしますと、営業権は2億4千万円(=8千万円×3年)くらいでしょう。御社の純資産は2億円ですから、4億4千万円になります。この金額で売却できる可能性がありますよ。」
甲社長:「本当ですか!?そんなに高い金額で売れるんですか?ぜひお願いします。」
営業マン:「お相手もある話しですので、保証はできませんが、交渉は私にお任せください。」
問題3
M&A仲介会社はB社の株価の計算を行いましたが、M&A仲介会社の株価の計算方法は正しいものでしょうか?
営業マン:「先ほど、株価が4億4千万円と申し上げておりましたが、御社の純資産を時価で評価したところ2億円ではなく、5 千万円となりました。それゆえ、1億5千万円を減額し、2億9千万円が適正な株価となります。失礼しました。」
(数日後)
営業マン:「X社から意向表明書には、「DCF法による買収価格2億3千万円」という記載がありました。これはちょっと安いですね。」
甲社長:「話しが違うじゃないですか。先日は、2億9千万円で売れるという話しでしたよね?これはどういうことですか?」
営業マン:「まあ、相手がある話しですから、簡単に価格は決まりませんよ。買い手は安く買いたいと思うのが当然ですから、最初の段階では、低い買収価格を提示してきたのでしょう。これから私が強気の交渉で、価格を引き上げますので、任せてください!」
問4
M&A仲介会社が計算した株価を大きく下回るものでしたが、このような差異が生じるのはなぜでしょうか?
問5
M&A仲介会社は、買い手と売り手それぞれが希望する価格の中間点で価格交渉の合意を目指すことが一般的ですが、このような交渉は、売り手の利益を犠牲にするものだと言われることがあります。これはなぜでしょうか?
ヒント
【支配権】
株式承継(法人)又は不動産承継(個人)、分割と税負担
【借入金】
個人保証の引継ぎ、解除
【リーダー】
社長と従業員との信頼関係、経営理念、リーダーシップ
【管理】
従業員・組織の管理、規則、コンプライアンス
【戦略】
企業の収益性と成長性の維持、新規事業
【知的資産】
顧客関係、営業力、技術・ノウハウ、許認可
事例研究10(取引スキームの選択)
事例
B社(機械製造業、従業員数20人、売上高10億円、営業利益7千万円、当期純利益3千万円、純資産2億円、借入金1億円)は、関東の地方都市にある創業50年の町工場であり、創業者である甲社長(代表取締役、75歳)が株式100%を所有しています。後継者がいないため、甲社長は事業を第三者に承継することとしました。現在、中小企業診断士であるあなたのアドバイスを受けています。
あなたは、提携している金融機関から買い手情報の提供を受け、候補先3社を甲社長に紹介しました。甲社長はその3社と面談を行った結果、最も良い価格(4億円)を提示してくれたY社を買い手の最有力候補として、条件交渉を始めることとなりました。
中小企業診断士であるあなたとの会話は以下の通りです。
あなた:「取引条件として決めるべきことは、譲渡価格、譲渡スキーム、スケジュール、譲渡後の運営方針の4つです。今日は譲渡スキームを検討したいと思います。」
甲社長:「譲渡スキームですか?株を売って、現金をもらうだけでしょう?」
あなた:「いえ、株式を譲渡する方法だけではなく、事業を譲渡する方法もあります。図に描きますと、このような感じです。」
問1
株式譲渡と事業譲渡の相違点を、税負担や手取額の観点から説明してください。
あなた:「ところで社長、M&Aが成功すれば、多額のお金を受け取ることになりますが、そのお金はどのように使いたいですか?」
甲社長:「私は、老後に贅沢な生活をすることは考えていません。お金はできるだけ多く子供に遺して、孫の教育資金にでも使ってほしいですね。」
あなた:「売却代金の現金を相続したいのであれば、個人で現金を持たないほうがいいですね。」
甲社長:「それはどういうことですか?株を売ったら、私の手元にお金が入るでしょう?」
あなた:「おっしゃる通りで、株式譲渡では、売却代金は社長個人の手元に入ってきます。しかし、個人財産を増やしてしまうと相続税負担が重くなるため、それは得策ではありません。」
甲社長:「それでは、どうすればいいのですか?」
あなた:「はい、甲社長の場合、事業譲渡を行うべきでしょう。」
問2
相続税対策を考える甲社長が、株式譲渡ではなく事業譲渡を行うべき理由は何でしょうか?税負担の観点から説明してください。
甲社長:「先生、実は当社は粉飾決算していたのですが、大丈夫でしょうか?」
あなた:「それは困りましたね。粉飾決算を行っていたのであれば、Y社に見てもらう決算書が適正な財政状態及び経営成績を表していないということでしょう。これは事前にY社に伝えておいたほうがいいですね。」
甲社長:「そんなことを言えば、乗り気になったY社が当社の買収を断念すると言い出さないでしょうか?」
あなた:「確かに、問題ある会社を丸ごと買収するとすれば、買い手は躊躇するでしょう。しかし、事業譲渡であれば、買い手側に生じる問題が解消され、買収しやすくなるはずです。」
問3
買い手の立場から、M&Aにおいて事業譲渡が選好されやすいことを、財務デュー・ディリジェンスの観点、株式譲渡契約書における補償条項の観点から説明してください。
ヒント
【支配権】
株式承継(法人)又は不動産承継(個人)、分割と税負担
【借入金】
個人保証の引継ぎ、解除
【リーダー】
社長と従業員との信頼関係、経営理念、リーダーシップ
【管理】
従業員・組織の管理、規則、コンプライアンス
【戦略】
企業の収益性と成長性の維持、新規事業
【知的資産】
顧客関係、営業力、技術・ノウハウ、許認可