事業承継支援研究会

第15回 事例研究問題

2018年11月19日  

12月3日(月)第15回事業承継支援研究会にて用いられた事例研究問題を掲載いたします。
下記の画像をリンクしていただくことでPDFが開きますので、ご利用ください。

第15回事業承継支援研究会 事例研究問題

事例問題

甲社長(70歳)は、東京都内にあるA社(中華料理店5店舗運営、従業員数15人(パート・アルバイト50人)、売上高3億円、当期純利益1千万円)の創業者であり、株式1,000株(発行済議決権株式の100%)を所有し、これまで代表取締役社長として頑張ってきました。
A社の店舗は、郊外の幹線沿いに本店を含む3店舗あり、大きなJRターミナルの駅前にも1店舗あります(合計4店舗)。本店では宅配の注文も受けており、店舗スタッフが近隣顧客の自宅まで配送しています。

料理の味の評判はとてもよく、店舗近隣住民からの知名度も高いほうです。特に、ヘルシーな素材を使った餃子が大人気です。最近では、焼売など餃子以外の点心メニューを増やしたことから、広告宣伝は一切行っていないにもかかわらず、女性客が増えています。
A社の運営方法は、本店の厨房をセントラルキッチンとし、ここで製麺、肉や野菜のカット、餃子作りを行い、毎朝各店舗に配送するというもので、調理の効率化を図っています。仕入先は、食品商社のX社とY社で、工場で配送を受けていますが、野菜については調理人が青果市場へ毎朝行ってこだわりの野菜を買っています。

財務状況について、直近の3ヵ年、A社の売上高は横ばいとなっています。また、野菜の仕入価格やアルバイト人件費が上昇しているため、利益率が低下しています。これに対処するため、A社はメニューの変更、細やかな値上げを行っていますが、黒字を確保するだけで精一杯です。また、パート・アルバイトの人材採用が年々厳しくなっており、コスト上昇圧力が続く見通しです。さらに困ったことに、今年度中には、A社の主力店舗の近くに、低価格戦略をとる大手外食チェーンの中華料理店が新規出店する予定です。

甲社長は、事業承継を進めています。後継者候補と位置づけられている長男の乙氏(40歳)は調理人として一人前となり、5年前に有名ホテルを退職してA社に入社しました。現在は、主力店舗の店長として働いています。
ある日、後継者候補の乙氏は、多忙な日々の中、ふと立ち止まって事業承継について考えてみました。

乙氏:「そう言えば、うちの会社って儲かっているのかな?調理師である自分は自社のことを何も理解できていない、これではマズいな。」

後日、乙氏は事業承継の専門家(中小企業診断士)であるあなたと面談し、相談をしました。

乙氏:「先生、私が事業を引き継ぐ予定なのですが、当社の現状はどうなっているのでしょうか?また、今後も存続して成長させることができるでしょうか?」

あなた:「まずは外部経営環境を一緒に調べてみましょうか。データを持ってきますよ」

業界団体から公表されたデータによれば、東京都内の中華料理店の売上高は前年比0.5%増加、全体の客単価は3%上昇となっていました。飲食業は景気変動の影響を受けやすく、インバウンド効果、原材料価格や人件費の上昇、競合の出店など多くの外部要因によって業績が影響を受けます。近年は、コスト増加を販売価格上昇に転嫁することで、飲食店全体の業績は改善傾向にあります。
しかしながら、今年に入ってから、消費マインドの急激な悪化に伴い、消費者の低価格化志向が高まってきています。それゆえ、消費者ニーズは、高価格・高付加価値の料理を求める顧客と、低価格・低付加価値の料理を求める顧客に二極化しているようです。
特に、健康志向の高まりから、食に対するこだわりが強く、高価格でも品質の高い料理を求めるニーズが増えてきています。これは同時に品質維持、安全・衛生管理の厳格化によるコスト増加をもたらします。

一方、300円ラーメンなどの激しい低価格競争も始まっており、大手外食チェーン店が薄利多売を仕掛ける動きも見られます。また、コンビニやスーパーの惣菜コーナーなど中食市場との競争が始まっています。
A社を取り巻く外部経営環境は楽観視することができません。しかし、人口減少が緩やかな東京都中心部では、急激な需要減少は考えにくく、相応の外食ニーズと売上規模は維持できるものと考えられます。

乙氏:「なるほど、飲食店は厳しい経営環境に置かれているようですが、当社の状況はそれほど悪くはないということですね。」

あなた:「お父様である甲社長が頑張ってきたからですよ。しかし、現状を変えずに甲社長のやり方をそのまま承継すれば、近い将来、経営が苦しくなる可能性があります。今後は、乙さん主導で、先手を打った事業戦略を考えなくてはいけません。」

乙氏:「わかりました。社内の状況はどうなっていますか?」

あなた:「次に内部経営環境を一緒に確認してみましょうか。過去の決算書を確認するとともに、甲社長にヒアリングした結果をお話しましょう。」

各店舗の売上は、毎週月曜日に、本社経理部にFAXで報告させており、経理部スタッフ2名が手分けして集計し、会計システムに入力しています。しかし、食品商社への仕入れは月末一括払いなので、店舗ごとの仕入原価の計算は行っていません。甲社長は、毎月末に顧問税理士から提出される合計残高試算表を見て、全社的な損益管理のみ行っています。

各店舗では、アルバイト・パートのシフトは店長が決めていますが、店舗ごとの人件費のばらつきが大きいように見受けられます。また、ランチと夜の間、14時から17時がアイドル・タイムとなっており、店舗スタッフが暇を持て余しているようです。さらに、アルバイト・パートもレジ対応を行っており、手書き伝票での代金支払のため、記入ミスも散見され、一部では売上代金が着服された可能性もあるようです。これについて、大手マーケティング支援業者R社から「エアレジ」というタブレット端末を活用したレジ・システムと、「MF会計」というクラウド会計システムの導入を提案されています。しかし、甲社長をはじめA社スタッフはIT活用の知識が全くありません。

マーケティングについて、A社では、中国人の丙氏が、地元香港で秘伝のタレとレシピを使った焼売の新メニューを開発しており、インターネットの口コミで人気が広まると、週末に行列ができる日も見られるようになりました。最近は、インターネットのECサイトでの食品加工品の通販が伸びており、楽天やAmazonからEC店舗の出店を提案されていますが、甲社長をはじめA社スタッフはECの知識が全くありません。
また、本店では日本に進出してきた米国宅配大手UB社から、インターネット集客と配送代行を提案されました。しかし、1件当たりの配送手数料が400円と非常に高額であるため、導入すべきかどうか悩んでいます。

【問1】

商流図を描いてください。

【問2】

SWOT分析を行い、強みを機会に活かす戦略を提案してください。

あなた:「いろいろと問題がありますね。」

乙氏:「実際にどの店舗で儲かっているのかどうか、よくわからないですね。」

あなた:「飲食業では各店舗の採算管理が重要です。不採算であれば、テコ入れや撤退を考えなければいけません。最も重視すべき指標は「FL比率」です。Fは( A )、Lは( B )を意味します。」

乙氏:「当社のFL比率を見ると、いずれも業界平均を上回っています、コスト削減が必要ですね?」

あなた:「その通りです。コストが高い原因を考え、業務の効率化を図る必要があるでしょう。たとえば、( C )を見直すことによって原価率を下げることが可能となります。貴社は( C )に対する価格交渉力はありませんから、他社から見積もりを取ってみませんか?」

乙氏:「なるほど、( A )の低減ですね。一方、( B )の負担が重いのは、当社の店舗運営が昔ながらの手作業であることが原因だと思います。それを改善することはできませんか?」

あなた:「各店舗の売上報告が週1回というのは、報告が少なすぎです。また、手書き伝票での集計も非効率で( B )上昇の原因です。この機会にレジを電子化して、業務の効率化を図りましょう。週1回ではなく、毎日、本社へ報告するシステムが必要です。この点、大手のPOSシステムは高額であるため、R社から提案されている『エアレジ』を使ってみましょうか。また、各店舗の仕入原価も店舗ごとに把握する必要がありますから、クラウド会計を使って、( D )ができるようにしましょう。これによって2人いる( E )を1人に減らせると思いますよ。」

乙氏:「なるほどIT活用で効率化できそうですね。売上は増えているようですが、さらに増やすにはどうすればよいでしょうか?いま巷では( F )の市場が拡大しているようですね?」

あなた:「貴社の丙氏は、本場中国で修行を積んだ調理師ですから、最近人気が出てきた餃子や焼売を販売する( G )を開設しませんか。こういった加工食品は( F )に最適です。また、店舗スタッフのアイドル・タイムが無駄になっていますので、ブログやFacebookへ投稿する記事を書いてもらい、SNSを活用した広告宣伝によって既存店舗や( G )への集客を図りましょう。」

【問3】

本文の空欄を埋めてください。