事業承継支援研究会

第8回 事例研究問題

2018年05月07日  

5月7日(月)第8回事業承継支援研究会にて用いる予定の問題を事前掲載いたします。
下記の画像をリンクしていただくことでPDFが開きますので、ご利用ください。

第8回事業承継支援研究会 事例研究問題

事例研究15(親族内承継における経営承継)

事例

中小企業診断士であるあなたは、事業承継の問題を抱えるお客様であるA社(売上高100億円、当期純利益3億円、従業員1,000人、純資産30億円のビルメンテナンス業)を訪問し、甲社長(代表取締役、70歳)と面談を行いました。息子の太郎氏(経営企画部長、45歳)は後継者候補です。

あなた:「お忙しいですか?」

甲社長:「幹部社員がしっかりやってくれていますから、私はゴルフ三昧の毎日ですよ。」

あなた:「そうですか。御社は5年前に事業部制を採用され、権限と責任を社員の方々へ移譲されましたよね。優秀な社員を抱え、組織的な経営を実現することができていますから、誰が次の社長になっても大丈夫ですね。事業承継はどのように進めていきますか?」

甲社長:「私がここまで築き上げてきた会社ですから、当然に息子の太郎に継がせたいと考えています。彼はいま経営企画部の部長として働かせています。」

あなた:「そうですか。他の管理職の3人は優秀な人ばかりですが、彼らと比較しても、息子さんが最適な経営者だと判断されたのですね?」

甲社長:「最適なのかどうかはわかりませんが、父親として息子が可愛いのは当然でしょう。」

【問1】
最適な後継者をどのように選ぶべきでしょうか?あなたの考えを述べてください。

あなた:「そういえば、息子さんの後継者教育はどのように行われていますか?他社での勤務経験も積ませましたか?」

甲社長:「うちの息子は、新卒で当社に入り、20年ここで働かせています。会社には独自の仕事のやり方がありますから、他社の仕事を覚えても意味がないでしょう。うちでは当然に新卒で採用しましたよ。若い頃から、社内で丁寧に指導し、営業から経理まで一通り経験させました。」

あなた:「社内で従業員とはうまくやっていますか?」

甲社長:「わがままな性格があるせいか、上司からの命令に従わなかったり、同期と飲みに行ったりしないなど、協調性がなく浮いているようですが、特に気にする必要はないでしょう。彼は社長となる人材で、そもそも他の従業員とは異なる立場にありますから。」

【問2】
甲社長は、息子を新卒採用して働かせていますが、一定期間は他社で修行させたほうがよいという意見もあります。どのように考えるべきでしょうか?

【問3】
後継者を自社に入れて教育する場合、「社長の仕事を覚えさせること」、「社員との人間関係を構築すること」を目的とすべきという意見があります。この目的を達成するためには、後継者教育のために、どのようなキャリア・プランが考えられますか。

数日後、後継者と想定されている息子の太郎氏と面談したところ、口数も少なくて大人しい性格であり、父親である甲社長に対して従順に働いている様子でした。

あなた:「太郎さん、甲社長も70歳ですね、A社の後継者は太郎さんでしょう。社長になる覚悟はできていますか?」

太郎氏:「はい、新卒で入社してから現在に至っています。ここまできて他社で働くなど不可能ですから、当社の後を継ぐしか、私の道はないでしょうね。」

あなた:「そんな受身で消極的な姿勢では社長は務まりませんよ、A社のトップとして、会社を経営する自信はありますか?」

太郎氏:「当社の規模は大きくなり、業績も安定していますから、誰が社長になっても同じですよ。私が社長になれば、周りの社員が支えてくれるでしょう。」

あなた:「なるほど、貴社は優秀な従業員が大勢いますから、従業員を信頼しておられるのですね、幹部社員との人間関係は良好ですか?」

太郎氏:「正直なところ、入社時以来、彼らとの間には溝がありますね。私は『社長の息子』として特別扱いされることも多いですから。定例会議で話すことはありますが、一緒に飲みに行くことはないので、彼らが何を考えているのか、よくわかりません。」

あなた:「仕事は好きですか?今後、A社をどのような会社にしたいですか?将来の夢はありますか?」

太郎氏:「仕事はあまり好きではありません。定時に退社して、家で子供と遊びたいのです。会社の将来ですか?うちは安定しているので、これからも現状を維持できればいいですね。」

あなた:「そのような消極的な姿勢は変えなければいけませんよ。そもそも社長の仕事って何なのか、勉強してきましたか?」

太郎氏:「社長の仕事は、得意先とゴルフに行くことですよ!得意先とのコミュニケーションを通じて関係性を構築することが、会社の売上増加をもたらすのです。勉強するよりも、ゴルフとお酒のほうが重要です。私は会社の決算書はほとんど見ないのですが、経理は社内で働く妹に任せており、心配はありません。」

【問4】
チェスター・バーナードは「組織の3要素」は、共通目的、協働意欲、コミュニケーションだと提唱しました。一方で、経営者の仕事は、「戦略立案」と「経営管理」だと言われることがあります。後継者に対して教えるべき、「社長の仕事」とは何か、あなたの考えを述べてください。

あなた:「ところで、甲社長、代表者を息子さんに交代し、株式を贈与する時期は決まりましたか?」

甲社長:「事業承継税制の特例制度も出たようだし、来年あたりに社長交代と株式贈与を実行しようかと思っているんです。どうでしょうかね?」

あなた:「事業承継税制の適用申請はお任せください。特例制度を適用することができる期間は、平成30年から( A )までです。また、特例制度を適用する前提として、今年から( B )までの( C )年間に事業承継計画を都道府県へ提出しておかなければなりません。」

甲社長:「納税ゼロで株式を贈与できるようになったのは助かりました。これで事業承継は問題ないですね。」

あなた:「株式承継はいいとしても、社長交代は大丈夫ですか?息子さんは一人前の経営者として社長になる資質を備えましたか?」

甲社長:「うーん、それがよくわからないんですよ。」

あなた:「組織のトップとして従業員にリーダーシップを発揮するには、何と言っても仕事で実績を残していなければいけません。息子さんが残された実績は何ですか?」

甲社長:「営業部長を担当させていた時期に、彼のおかげで多数の新規顧客を開拓することができましたから、実績の点では問題ないでしょう。能力と経験では十分です。ただ、従業員との人間関係にはまだ問題があるようですね・・・。」

【問5】
事業承継税制に関して上記AからCの空欄を埋めてください。

【問6】
子供に対して後継者教育を行う場合、どこまで成長すれば一人前の経営者になったと判断することができるでしょうか、あなたの考えを述べてください。

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