事業承継支援研究会

第16回 事例研究問題

2018年12月19日  

1月7日(月)第16回事業承継支援研究会の事例研究問題を掲載いたします。
下記の画像をリンクしていただくことでPDFが開きますので、事前にご確認ください。

第16回事業承継支援研究会 事例研究問題

事例問題

甲社長(70歳)は、地方にあるA社(機械部品製造業、従業員数30人、売上高20億円、当期純利益3千万円、純資産1億円)の創業者であり、株式3,000株(発行済議決権株式の100%)を所有し、これまで代表取締役社長として頑張ってきました。
得意先の大手自動車メーカーが、製造工程を東南アジアへ移転し始めていることもあって売上が減少していますが、まだまだ十分な利益を確保できているため、事業の存続については問題視していません。

甲社長は、70歳とは言え、健康状態は良好であり、これまで病気したことがありません。工場の現場を走り回って、元気ハツラツと働いています。仕事が楽しくて仕方がなく、可能な限り長く働きたいと考えています。
妻の丙氏は、これまで夫の甲社長を支えてきましたが、70歳を迎え、これからは夫婦で一緒に過ごす時間をもっと増やし、長期の海外旅行に出るなど、老後の人生を充実させたいと願っています。
一方、長男の乙氏(40歳)は、新卒で大手都市銀行に入り、現在、東京本社で法人営業を担当しています。乙氏は、このままサラリーマンを続ける人生に疑問を抱いており、自分で会社経営することも仕事として面白いのではないかと考えるようになりました。しかし、乙氏が実家に戻って父親の甲社長と話すのは、せいぜい年一回、正月休みに帰省するときくらいです。
家族には、嫁いだ後は子育てに専念している長女の丁氏(42歳)がいますが、親子・乙氏との仲はとても良く、実家は明るい雰囲気です。

ある日、甲社長は、行政機関が主催する「事業承継セミナー」を受講し、税理士である講師から「事業承継税制の適用を検討すべき。」と聞きました。セミナー終了後、複数の専門家との個別相談会があり、以下のような指導を受けました。

弁護士:「遺産分割の争いが問題となるので、無議決権の種類株式を発行しましょう。株式の民事信託も検討したほうがいいですよ。」

銀行員:「自社株対策のため、持株会社を設立して、ホールディングス化すべきですよ。」

生命保険営業マン:「多額の利益を計上されていますね、法人税を節税しながら、退職金を準備するために、社長を被保険者とする法人契約の長期平準定期保険をご提案します。」

【問1】

税理士、弁護士、銀行員、生命保険セールス、4人の専門家による指導が適切なものであるかどうか、評価してください。

甲社長は、専門家から様々な提案を受けましたが、税金や法律など難しい話しばかりであり、よく理解できませんでした。しかも、「自分は死ぬまで働くぞ。」と考えていたため、自分が引退する話しには全く関心がありませんでした。
その翌日、甲社長は、事業承継支援の専門家であるあなた(中小企業診断士)との面談がありました。

甲社長:「昨日、『事業承継セミナー』を受講しました。また、事業承継の専門家の方々から丁寧に指導してもらいましたよ。しかし、事業承継など、うちにはまだ早い話だと思いました。」

あなた:「何をおっしゃっているんですか。甲さんはもう70歳でしょう。次の社長は誰にするおつもりですか?」

甲社長:「私はまだまだ元気です。死ぬまで働くつもりですから、次の社長のことは、私が働けなくなったときに考えましょう。できれば息子の乙に継いでもらいたいですがね。」

あなた:「その点、ご子息の乙さんとお話されたことはありますか?」

甲社長:「いえ、一度も話したことはありません。彼は大手都市銀行で働いて活躍しているようですから、こんな地方の町工場など継ぎたいとは思わないかもしれませんね。」

あなた:「甲さんと乙さんは、事業承継の準備を今すぐスタートさせなければなりません。甲さんは引退する覚悟を決めること、A社事業を継ぐのであれば、乙さんは後継者になる覚悟を決めることが必要です。」

甲社長:「いやいや、私はまだ辞める気はありませんよ!」

あなた:「それでは、5年後に、もし甲さんが病気で倒れてしまったら、A社は誰が経営するのですか?」

甲社長:「うーん・・・・・」

あなた:「『事業承継セミナー』を受けて、事業承継の法務や税務を勉強するのもいいですが、その前段階としてやるべき事があります。甲さんご自身が、A社事業がなぜここまで成長できたのか振り返り、例えば、経営環境や経営資源の現状を確かめるとともに、乙さんと直接会って家業のA社をどのように考えているのか、話してみなければいけません。」

【問2】

あなたは、甲社長に対して、個別課題の解決策を検討するよりも先に、A社事業の現状を把握したうえで、課題を認識すべきであると考えました。A社の事業承継に関連して、いま甲社長が行うべきこと、それに対する支援者の役割を述べてください。

【問3】

後継者候補である乙氏が、A社事業を継ぎたいと考えている場合と、継ぎたくないと考えている場合に分けて、今後の事業承継の進め方を説明してください。