事業承継支援研究会

事業承継支援コンサルティング研究会(第36回)2020年10月5日(月) 事例問題

2020年09月30日  

事例問題(事業承継税制)

甲社長(70歳)は、40年前に設立したA社(機械部品製造業、総資産10億円、無借金で自己資本100%)の創業者であり、株式1,000株(発行済議決権株式の100%)を所有し、これまで代表取締役社長として頑張ってきました。

最盛期には、年商50億円まで拡大した事業でしたが、市場環境の急速な変化から売上が激減し、昨年、甲社長は廃業しました。

従業員は、経理担当の1人を除き、全員を解雇しています。現在は本社ビルを外部に賃貸するとともに、賃貸用不動産(商業ビル)を所有し、不動産賃貸業を営んでいます。

最近は、高齢化社会に適合する新規事業として、高齢者向けの飲食店経営や介護事業のFCを考えるようになりました。

引退を考えるようになった甲社長は、一人息子である長男である乙氏(45歳)にA社を承継したいと考えています。

顧問税理士によれば、A社の非上場株式の財産評価は8億円とされ、株式以外にも大きな個人財産を持つ甲氏の相続税は5億円を超える見通しです。税負担の大きさに困惑しつつも、甲氏は、株式承継の方法を検討することなく、ここまで来てしまいました。

しかし、A社で事業承継税制を適用することができるのではないかと考え、メインバンク(地方銀行)の営業マンに相談しました。

甲社長:「商工会議所の指導員から、事業承継税制の話しを聞きました。贈与税ゼロで株式を贈与できるらしいですね。当社でも適用することができますか?」

営業マン:「事業承継税制は、事業の存続・成長と雇用維持を目的とするものです。それゆえ、貴社のように不動産賃貸だけを行う会社には適用することはできません。」

甲社長:「不動産経営だけではありません。当社の新事業として、飲食や介護への進出も考えているんですよ。」

営業マン:「貴社の貸借対照表によれば、事業承継税制の『資産保有型会社』又は『資産運用型会社』に該当するはずです。これらに該当すれば、事業承継税制は適用できないのです。」

甲社長:「なるほど、当社の特定資産である賃貸不動産は総資産の97%を占めていますから、適用対象から外れるんですね。」

営業マン:「そうです。残念ですが、適用することができません。その代わり、当行が長男の乙さんに融資しますから、甲社長がお持ちの株式を全て買い取ってもらいましょう。甲社長の手元には多額の現金が入りますから、それを投資信託で運用しておけば、相続税の納税資金も確保できますよ。」

甲社長はメインバンクからの提案の意味が理解できなかったため、事業承継を専門とする中小企業診断士であるあなたに相談しました。

甲社長:「メインバンクから事業承継税制は適用できない、その代わりに株式の買取り資金を融資すると提案されたのだけど、どうすればいいですかね?」

あなた:「先日のお話では、飲食業か介護事業を始めるとおっしゃっていましたよね。そうであれば、事業承継税制を適用できるはずですよ。」

甲社長:「いや、賃貸不動産ばかり所有しているから、適用できないと言われましたよ。」

あなた:「確かに形式要件は満たさないかもしれません。しかし、事業実態要件を満たすことができれば問題ないですよ。早速、特例承継計画を提出しましょう。

【問1】事業承継税制の意義について

事業承継税制(経営承継円滑化法の贈与税の納税猶予免除制度)とは何でしょうか?

【問2】事業実態要件について

『資産保有型会社』又は『資産運用型会社』に該当すれば事業承継税制を適用できないのはなぜでしょうか?事業承継税制の適用が可能となる事業とは何か、「事業実態要件」について説明してください。

【問3】特例承継計画について

「特例承継計画」はいつまでに提出すればよいでしょうか?事業承継税制の特例措置の今後のスケジュールについて説明してください。

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